舌が這い回る。ぬるりとした粘性と熱の塊が自分の粘膜をなぞる感覚はきっと不気味で気持ち悪いはずだ。でも、そうじゃない。
口の中がアタシじゃない何かの、誰かの味になっていく。混ざってまったく違うものになる。その味をアタシはよく知っている。
多分アタシはこれが好きなんだ。
目の前がちかちかしている理由は、酸素が足りないってだけじゃなくて。どうしたって甘ったるい液体がアタシたちの間でやりとりされて。だいたい半分こにお互いの腹の底へ流れ落ちて、また熱くなる。
痛いくらいに剥き出しの肌につきささった、冬の夜の空気の痛みなんてもう思い出せない。
ただ、近くにいたかった。
ふたりで帰ってきて、靄がかった頭で服を脱いだ。からだに触れて、何か話したような気がした。顔が近づいて、夏葉が耳元で囁いて。
それからはもうずっとこうしている。
どれだけ近づいてもアタシは有栖川夏葉にはなれないし、夏葉だってそれはいっしょ。でもアタシたちは多分、ひとつになりたいんだってとこもいっしょなんだと思った。
それだけあればよかった。
気づいたら朝で、なににも囚われないような寝顔が見えた。
きれいだった。