「今日、シャンプーを買おうと思うんだけど」
レッスンが終わって開口一番がこれである。
美琴とユニットを組むようになってもう半年が経とうとするが、にちかは未だにこの相方の性分を掴みかねていた。
「……はい?」
「これもドラッグストアで買った方が安いのかな、って思って。ほら、前にそういう話をしたことがあったでしょう?」
いつだったか、ティッシュやら傘やらを買い揃えようとした美琴を止めたやり取りの事だろうか。
「いつもは通販で頼んでるんだけど、お店で買うのとどっちの方がいいのか気になって。そういうの詳しいでしょう?」
「んん、通販は物によるとしか言えませんけど……」
「えっとね、これなんだけど……」
美琴がスマートフォンの画面を見せる。
流石というべきか、やはり良いものを使っている。日用品にはあまりこだわりがない……というより頓着しない美琴だが、シャンプーはきちんとしたものを使っているようだ。彼女の知り合いにいるであろうスタイリストの指導だろうか。
脳をフル回転して普段は見もしない商品の値段を思い出す。確か行きつけのドラッグストアでは八百円前後で売っていた気がする。それに比べてこちらは三パックまとめて二千六十円だから……
「んー……これなら通販の方が安い、ですかね? 場所にもよりますけど」
「そうなんだ」
しかし、美琴の反応は喜ぶどころか真逆のものだった。一体どんな返しを期待していたのか。
「まぁポイントとか割引とか考えたらまた色々違ってくるとは思うんですけど……美琴さん、買い物にハマったんですか?」
「うーん、ハマったというより……」
思案顔。やがてにちかを見て目元を細め、
「もしそっちの方が安かったらまた買ってあげられるかなって。いちごサンド」
「!」
なんて、いたずらっぽく笑ったのだった。
「も、もー! あれぐらい自分で買えますよ!」
「そう? 美味しそうに食べてたからまたあげようって思ったんだけど」
「いやそんな餌やりするみたいな! それに、これでもカロリー計算とか頑張ってるんですよ!」
「そうなんだ。えらいね」
「え? えへへ……ってそうじゃなくて!」
ころころと表情を変えるにちかを見て美琴がくすりと微笑む。きゃんきゃん吠える子犬の頭をぽん、と一撫ですれば、たったそれだけでにちかは小さな悲鳴を上げ、俯き黙り込んだのだった。