ちょこ先輩はいつだってあたしに優しい。
「果穂は初恋って何歳だった?」
だから、この質問に何の悪気もないってことを、あたしは知っている。──知っていればダメージを受けないわけじゃないってだけで。
「初恋……ですか」
「そそ。雑誌のアンケートで聞かれたんだけど……果穂はどうかなーって」
ということは、ちょこ先輩の初恋が何歳だったかは知る機会があるわけだ。知りたいような知りたくないような。考えるとジクジク胸がうずく。
はぐらかすのは簡単だけど。
「あたしの初恋は、……十二歳です」
「わぁ、それじゃ結構最近…………っていうか、あれ? もしかして、私も知ってる人だったりする?」
尋ねるちょこ先輩は楽しそうだ。
それが、歯がゆい。
「誰にも言いませんか?」
目を伏せて、恥ずかしがっている風を装う。装うというか、実際に恥ずかしくはあって。ドキドキしているのも間違いなかった。
ちょこ先輩もドキドキした様子で、ぎゅっと拳を握って、こくこくと頷いた。
「言わない、言わないよ!」
「じゃあ、耳、貸してください」
内緒話をする時のように口元に手を添えて声を潜めると、ちょこ先輩は神妙な顔で耳をあたしの口のほうへ向けてくれた。
耳に手をあてて。
ほとんど吐息のような小さな声で、囁いた。
「ちょこ先輩」
声がちょこ先輩の奥の奥に届くまで、数十秒。
「好きです」
あたしの掌で包まれた耳が真っ赤になるのは、一瞬のことだった。
ちょこ先輩は、いつだってあたしに優しい。
あたしは今日、ちょこ先輩に優しくできるかどうか、わからない。