「インタビューの時って、なんだかいつもより喉が渇いちゃったりしないかな……?」
「え? ……え、別に?」
「そ、そっか……」
五秒ほどの沈黙。
「お、お仕事も学校もない日って何してることが多いの?」
「え、普通にバイトとか自主練とか……」
「そ、そうなんだ。すっごく大変なんだね……っ」
「いえ、自分で決めたことなんで平気ですけど……」
「ほ、ほわ……」
この子は一体何がしたいんだろう。そんな疑問ばかりが私の胸中を満たしていく。
それは土曜日のお昼過ぎ、冬の合同ライブについての打ち合わせ中の出来事。プロデューサーさんが電話か何かでしばらく席を外したほんの数分間、たまたま一緒に話を聞くことになったイルミネの真乃ちゃんとふたりだけでその場に残されていたんだった。
それだけならまぁよくある話だけれど、待ち時間のあいだ真乃ちゃんがやたらと私に話しかけてくる……割には会話が続かないのが今回の困った話。そもそも共通の話題もなければ向こうの意図すら掴めないんだから、会話が続くはずもない。
「……えっ、と」
真乃ちゃんが何かを訊ねて、私がそれに返事して、「そうなんだ」と小さく呟いたかと思えばそこで会話が終わってしまって。そうしてまた沈黙が訪れる。
そんなやり取りを繰り返してもう四度目、回を増すごとに私たちを取り巻く空気は徐々に息苦しいものへと変わっていく。ちらりとばれないように様子を伺えば、居心地悪そうに目を伏せる真乃ちゃんが見えた。あぁほら、気まずいって向こうも思ってるんじゃないですか。
緊張して声も上擦ってるくせになお話を繋ごうとする姿に、こっちが見ていられなくなる。
「そ、その……にちかちゃんは……」
「……えっと。無理に話しかけなくても大丈夫ですよ?」
「え……あ、ご、ごめんねっ! 迷惑だったかな……」
「あっいえ、メーワクではないですけど……別に無言とか気にならないタイプなんで、無理に気を使わなくていいですよ、って話です」
そう伝えればますます困った風に下がる眉。どうやらこの子のほしい言葉はこれではなかったらしい。
「え、えっとね、気を遣ってるわけじゃなくて……その……」
「……?」
もだもだと言葉に詰まっている様子。つい急かしてしまいそうになるのを堪えつつ、大人しく次の言葉を待つ。
ひとつ大きく息を吸って、吐いて。また吸って吐いて……意を決したようにきりりと緊張した面持ちでこちらへ向き直る真乃ちゃん。
「わっ私、にちかちゃんと仲良くなりたくて……!」
「……、えっ」
「だから、にちかちゃんのことをもっと知りたいな、って思ってて。もし嫌じゃなかったら一緒にお喋りしていたいんだけど……だ、駄目、かな……?」
なんて。
小動物かなにかみたいにちいさく身を縮こまらせて、けれど私をまっすぐに見つめながら。
絞り出すように精一杯張り上げていた声は、最後にはもう震えて小さくなってしまっているけれど。ほっぺを朱色に染めたその子は、はっきりとそう言った。……ああ、えっと。なるほど。
「えー……駄目ってことはないですけど……」
ふるりと不安げに瞳が揺れる。
「……や、やることないしなんか話しますー?」
超分かりやすく目を輝かせる。
「い、いいのっ? ほわ、ありがとう……っ」
さっきまでのためらいはどこへやら。これ以上ないってくらいにふにゃふにゃに顔を綻ばせた真乃ちゃんは、ぎゅむっと手まで握ってくる。勢い余ったのか顔まで妙に近くって、ほんの一瞬だけ息が止まりそうに──って、いやいや。
あぁうん、なるほど。これはただ雑談に応じるよりもずっと疲れるやつかもしれない。
「に、にちかちゃん……っ」
真乃ちゃんのきらきらした瞳がまっすぐに私をとらえる。
「えっと、好きなものとか……教えてくれたらうれしいな……っ」
「……! は、はい……」
そうして。
プロデューサーさんが戻ってくるまでの五分間は、今までの人生で一、二を争うくらいに長く感じられた。