「あ、ほら、あれが大三角です」
 窓の外を指差して、果穂は恋人に振り返った。
「どれ?」
 毛布を羽織り、ぺたぺたと夏葉も窓際に立った。
「オリオン座の肩の所……見えますか?」
「待って」
 夏葉が果穂に体を寄せる。
 触れた体の温度、髪に香るシャンプーと微かに混ざる汗の匂い。つい意識してしまって、果穂の心臓はどきりと跳ねた。
「ん……」
 目を細め、空を見上げる。都会の空は暗いと言うが、高層から見える夜は存外に明るい。
 夏葉が見つける目印になるよう、果穂は努めて人差し指をぴんと伸ばした。跳ねる心で、指先まで逸れてしまわぬように。
「……あった」
 ふふ、と夏葉が果穂を見上げて笑う。
「綺麗ね」
「はい! 冬の大三角はシリウス、プロキオン、ベテルギウスっていうんです。この三つは地球から見える恒星の中でも特に明るくて、とりわけシリウスが一番……」
 説明する横目に、体をさする夏葉が見えた。暖房が効いているとはいえど、冬の夜、窓際に毛布一枚は冷えるのだろう。
 果穂は言葉を止めて、夏葉を包み込むように抱き寄せた。
「夏葉さん、布団に戻りましょうか」
 胸元に夏葉を沈めて、その髪をゆるく撫でる。あら、と夏葉は上目遣いに果穂を見つめ、
「私なら平気よ?」
 だから気にしないでと尖らす唇を、塞ぐように己と重ねる。
「良い子なので」
 額を付けて囁くと、揺れる瞳はあまりにも近くて、染まる頬はあまりにも熱くて、何万の星よりもきっと、今この瞬間が輝いていた。