昼過ぎの風がカーテンを揺らす。窓越しの日差しは、照明を落としていても否応なく二人の姿を映し出した。
「ちょこ先輩」
「んっ……んん、」
「声──もっと、聞かせてください」
背後から囁かれた声が甘くて、つい身をよじれば下腹部を貫く疼きが智代子を責める。
午後から二時間、二人で予約したレッスンルーム。施錠してあるし、防音設備だってある。だから誰も来るはずはない、そう分かっていても、つい声を潜めてしまう。
そんな智代子の気を知ってか知らずか、果穂の手がするりと智代子の腹部を撫でる。腰の動きと合わせるように身体をなぞる感覚に、極まった声が上がってしまって、智代子は羞恥に頬を染めた。
熱のこもった吐息で眼前の鏡が曇る。手をついた指紋も合わせて、後で綺麗に拭わなければならないだろう。ふと視線を落とせば、果穂と繋がる己の姿が鏡越しに目に入った。
上気した顔に張り付く髪、下着を脱がすのももどかしく露わにされた胸と臀部、その体をなぞるように這い味わう果穂の指先。そして、それを求めて我知らず動く智代子の体。
恥じらいからつい、目を逸らす。
──と、その頬を果穂の長い指が挟んだ。
「どうかしましたか?」
「ん……や、何でも、なくて……」
身をよじって指から抜け出そうとすれば、果穂の下腹部が智代子にキツく押し付けられる。智代子の肉を押しのけて、果穂のものが突き上げた。こみ上げる快感に堪え切れず嬌声を上げる。
「どうしたんですか」
囁き声が耳元に届く。
「言ってくれないと、わからないです」
小刻みに突かれて、指先に弄ばれて、揺すぶられる度に痺れが身体を走って、劣情が智代子の脳を焦がす。
──ずるい。蕩けた脳でそう思う。
そんな風に、言われてしまったら。
わからないで、ほしく、なってしまう。
レッスンルームにはシャワールームが併設されている。言うまでもなく練習後の汗を流すためだ。
が、この場合流しているのは汗ばかりではなかった。
「さすがにこのままは帰れないもんね……」
体に付着している白濁した液体を洗い流す。今日は果穂との自主レッスンの予定だった。本当に、そのはずだったのだ。
実際、最初はダンスの動きを二人で合わせていたのだが、果たしてどうしてあんなことになってしまったのか。思い返せば体が再び熱を帯びてしまう。シャワーを頭から被って、智代子はできるだけ先程のことを考えないよう努めた。滝行というやつである。うん、滝行、気持ち良い。程良い温度が肝心だね。
「ちょこ先輩」
「ふあ⁉ ……っと、ごめん、何?」
不意に隣から名を呼ばれ、間抜けな声を上げてしまった。果穂も隣でシャワーを浴びているのだ。というか智代子がシャワーを浴びることになった主な原因なのだから当たり前だが。
「あの、お湯が出ないみたいで……そっちのシャワー、借りてもいいですか?」
「あっと……故障中なのかな? いいよ、一緒に浴びよう」
女同士であるし、それ以前に先程単純な裸よりも恥ずかしい状況を共にした訳で。今更遠慮などする必要もなかろう。
そういう判断で智代子は果穂を迎え入れた。
当然だがシャワーは一人で浴びるものなので仕切りの中は相応に狭い。二人の人間が入るだけならまだしも、一緒に浴びるとなるとほとんど抱き合うように体をくっつけねばならなかった。
やましいことは(おそらく多分きっと)ないのだけれど、何しろ直前の出来事が出来事だ。果穂の体と密着していることをつい体が意識してしまう。
考えるな、考えるな、考えるな。一緒にシャワーを浴びるだけなんだから。頭の中で一心に唱えて気を逸らす。
──と、果穂の掌が智代子の腹部を撫でた。
「ひゃうっ⁉」
「ちょこ先輩の体、洗ってあげますね!」
「そ、そう! ありがとう!」
突然のことに頭が追いつかないが洗ってくれるというなら任せたほうが良いのだろう……いや、そうか? 何で洗おうと思ったの? 小学校で洗いっこでも流行ってるの? もしそうだとしたら大分世紀末な学校だしかなり嫌だね?
混乱している間にも果穂の手が智代子の腹をゆるゆると撫ぜ、そのまま上へ──胸へと移る。体格に反して豊かな智代子の乳房を、果穂の手が柔らかく揉んだ。
「ん、ちょ、ちょっと、果穂……」
胸に広がる快感が堪え切れず吐息になって漏れる。軽く咎める声を上げるものの、果穂の手が止まることはない。
果穂は乳房全体を味わうように深く揉み、ゆるりとその先端に触れた。智代子の乳首は指先を待ちかねるかのようにその存在感を確かにしていた。
弾くように指先でそれを弄ぶ。刺激を感じる度、智代子の声が高くなっていく。
大きな両の掌が乳房を包み、揉み、その先端を爪弾く。
「ん、ぅ、はぁ……ぁ、」
漏らすまいとする喘ぎ声は逆に艶かしい。このまま、大声で果穂を求めてしまいたい。情欲に流れそうになる自分を、理性でかろうじて繋ぎ止める。だめ、だめ、だめ。
「ちょこ先輩」
耳元で果穂が智代子の名を囁く。つ、とその右手が乳房を離れ、智代子の体に触れるか触れないか、伝うようにして下へと降りた。
「スゴく、ぬるぬるしてます」
長い指先が固く閉じた智代子の股を割り、その秘所をゆるゆるとかき混ぜる。
「そ、れは……果穂が、」
「人のせいにするんですか?」
ちょこ先輩は、悪い子ですね。
果穂が人差し指と中指で、つまむように智代子のクリトリスを弄った。一際高い声が上がるのを構わず、さらに強く擦る。
智代子自身の意思とは裏腹に、甲高い喘ぎ声が堪えきれずに漏れる。蜜がしとどに秘所を満たし、果穂の手をシャワーとは別の液体が濡らした。
「ちょこ先輩、ちょっと、壁に体重かけられますか?」
「ん……え? こう?」
智代子はシャワールームの壁に手を突いた。ちょうど果穂に向かってお尻を突き出す格好になる。
「はい、大丈夫です!」
どういう意味があるのだろうと考える間もなく、果穂の両手が智代子のお尻にあてがわれた。そのまま親指で智代子の秘所を広げ、果穂は跪いてそこに己の口を、
「ちょ、ちょ、ちょ⁉」
悲鳴で制止されるのも構わずに舌を這わす。ぬるりと這う舌先はまるで生き物のようで、指とは違う快感が智代子を走った。
「そ……そんなところ……舐めたら……ばっちいから、ぁあ……っ……」
「ちょこ先輩にばっちいところなんてないです」
「い、いや、そういう問題じゃ、あっ……ん、うぅっ……!」
果穂の舌が秘所の奥、智代子の中へと蠢く。入り口で焦らすように掻き回されて、智代子の頭は甘く痺れつつあった。
粘度を増す愛液を啜り、奥へ奥へと智代子を貪る。水音が智代子の耳にも届き、それがまた扇情的に思えて下腹部を疼かせる。
「ん、ぁ、これ以上……果穂……っ、待っ……あぁああっ!」
智代子の身体が震え、力が抜けかけたところを果穂の腕が抱き留めた。
「……イきました?」
「……ひどいよ」
果穂に支えられながら、智代子が呻いた。
「えっと、その。ちょこ先輩の反応がかわいいから……つい」
「ついじゃないよ、もう」
果穂の腕を抜け出しながら、智代子は口を尖らせた。振り返れば、眉を下げて笑う少女の顔が目に入る。その身体を抱き寄せて、手でさする。
「……いっしょに気持ちよくなりたかったのに」
甘えるように呟けば、ぴくりと果穂の身体が震えるのが分かった。その手を下腹部へと這わせて、昂る果穂自身を撫でた。果穂のそこもまた、お湯にはないぬめりで濡れている。
「さっきしたばっかりなのに、もうこんなになってるんだね」
指先で弄ぶとびくびくと果穂が震えて、果穂の呼吸が少し荒くなるのが分かる。
──かわいい。
果穂の堪えるように震える睫毛を見上げていると、そんな感想が浮かぶ。年相応に幼い輪郭が、快感に染まっていた。
そんな果穂の足元に膝をついて、智代子は果穂のものに口付けた。
「んっ……ちょこ、せんぱ、」
「次は果穂が気持ちよくなる番です」
少女に不釣り合いに猛り脈打つそれに、柔く手をあてがい、根本からねぶる。付け根から裏筋を辿り、亀頭をちろちろと舌で責める。
「う、そこ、舐めたら……あぁっ」
歯を立てないように気をつけながら、智代子はゆっくりと果穂のものを口に含んだ。唾液で果穂を濡らして、水音を立てながら果穂を吸い、丹念に舌で味わい、一度口から出して、また根元まで飲み込む。
「んんんっ……!」
頭に当てられた果穂の手に力がこもる。その動作で気持ちいいのだと分かって、智代子はさらに動きを早めた。頬をすぼめて果穂のものを口いっぱいに沿わせると、快感からか果穂が腰をよじらせ喘ぐ。響く水音は唾液とカウパーが混ざりあい、もうどちらのものか分からない。もっと、もっと気持ちよくさせてあげたい。もっと、もっと、もっと──
「あぁっ‼」
「んぶっ……」
荒い息が智代子のつむじに熱くかかった。粘つくそれを溢さないよう気をつけて、飲み込む。その様子をぼうっとした顔で見つめながら、果穂が呟いた。
「飲まなくても……」
「ん、でも……」
果穂自身にまとわりついた精液を舐め取りながら、智代子は上目遣いに果穂を見上げた。
「果穂のって思ったら、ぜんぶ欲しくなっちゃった」
「……っ」
なぜか目を逸らす果穂に首を傾げつつ、智代子は立ち上がった。
「えーと……結果的にまた汚れてしまったわけですが。ちゃんとまた流さないとね……」
と、シャワーを調整しようと後ろを向いた智代子を、果穂が抱き締めた。
「ひゃっ」
「ちょこ先輩……だいすきです」
耳元の囁きは熱い吐息と混ざり合い、智代子の耳を痺れさせる。鼓動が高鳴り、お腹の奥が熱くなる。それでもなけなしの理性が快楽に身を任すことを許さない。自分を抱く果穂の腕に指を沿わせ、少しでもほどこうと抵抗してみせる。
「だめ、だよ……さっきも……したところ、だから」
強く否定するつもりが、声は掠れてか細く消えた。この程度の抵抗は意に介さぬとばかり果穂の腕の力が強くなる。そしてこうなってしまえば、体格に劣る智代子にできる抵抗など何もないのだ。
果穂の指が快感の蜜で溢れたばかりのそこを撫でる。二度目の愛撫には耐えがたいとばかり、つい大きく喘いでしまう。まだ先ほどの痺れが残っているそこは、軽い刺激でもイってしまいかねないほどに敏感だった。
「ん、んんぁ……っ……!」
悲鳴に近い喘ぎ声がシャワールームに漏れる。くねらせた腰が果穂の指をさらに奥へと誘って、それがまた智代子を快感で揺らす。奥へ奥へ、より智代子が感じる場所を探すように、果穂の指先が中を掻き回す。
「ここ、好きですか?」
「ふぁ、ら、そ、こ……っ、だ、待……っ……!」
抑えた声の中に敏くも智代子の敏感な部分を見つけたのだろうか、執拗に責められて頭が真っ白になる。刺激が智代子を貫いて、その快感に支配されそうになる。それでも果穂は止まらない。ゆるゆると中指を出し入れしながら、時折激しく責め立てる。
「や、ら、だめ、待って……待って!」
耐え難い刺激に、つい声が大きくなると、今度は本当に果穂の手が止まった。
「ダメ、ですか?」
叱られた子供のような口調で、そんな問いかけを智代子に投げてくる。
もう、本当に、この子は。
この体格差ならその気になれば智代子を組み敷いて自由を奪うことなんて簡単なのだろうが、果穂は決してそうしない。それが分かっているからこそ、智代子も逆に──逆らえないのだった。
「だ、ダメじゃ、なくて」
股を這う果穂の指先に、自分の指を重ねる。そのまま、ねだるように果穂の指をさすってみせる。
「これ以上は、……切ないよ」
吐いた言葉は、想像以上に甘く響いた。
背後で短く息を飲む音が聞こえて、それから胸元に添えられていた左手が、強く智代子を抱き寄せる。
臀部に硬いものが当たった。生暖かく、お湯とは違うぬるりとした感触。
「ちょこ先輩、良いですか?」
「……うん」
「あの、ゴム、更衣室なんですけど……」
「外に出せば大丈夫だから」
なんて、自分でも信じてはいない避妊方法を口にして。果穂の下腹部に、智代子は自分の尻を押し付けた。
「果穂が、ほしい」
告げた声は驚くほど熱を孕んでいた。果穂の唾を飲む音が耳元で鳴る。わかりました、と掠れる声で囁いて、智代子を抱きしめる腕がするすると下半身へと降りていく。
果穂の親指が肉厚な智代子の尻を押し分け、秘部をゆっくりと広げていく。その入り口に果穂自身をあてがって、ゆるゆるとそこを弄ぶ。淡い快楽の予感に智代子の下腹部が熱を持ち、堪えきれずに吐息が漏れる。
「挿れます、ね」
その声に混ざる緊張と期待を感じ取りながら、智代子はこくりと頷いた。尻を掴む手にさらに力がこもり、智代子の入り口が果穂によって押し広げられる。掻き分けるように中へと入ってくる果穂の感触に、抑えようとしてもなお高い声が上がってしまう。
「…………んっ……、くぅ!」
幸いにして、先ほどからの戯れで智代子も果穂も快感と期待に濡れている。さしたる抵抗もないまま、果穂はずんずんと智代子の奥へ奥へと侵入していく。されるがまま、それでも堪えきれない昂ぶりについ逃げるように体を捩るのを、果穂の両手が逃すまいと抱く。結果としてさらに奥を果穂が擦れ、智代子の喉が甘く鳴った。
「っ……、そこ、…………!」
「ここ、ですか?」
探るように果穂が智代子の奥をぐりぐりと抉った。悲鳴のように喘いで智代子は体を揺らしたが、体は果穂にしっかりと捕まえられてしまっていて逃れることができない。絶え絶えに声を漏らすのが精一杯だった。
「……だ、……だめ、そこ……そんな、しちゃ……」
「どうして?」
尋ねる間も果穂の動きは止まらない。熱と痺れに何度も頭を揺らされ、定まらない思考は深い喘ぎ声となって吐息とともに溢れ出す。返事ができぬまま快楽に埋もれようとする智代子を揺り起こすように、果穂の問いが繰り返される。
「どうして、ですか?」
「……どう、……きもち、よすぎて……、っ……、ヘンに、なっちゃう……」
痺れる頭で途切れ途切れの言葉を返す智代子の首筋に、果穂が軽いキスを落とす。
良くできました、と言うように優しく体を撫でられて、たったそれだけの感触にもゾクゾクと智代子の体は粟立ってしまう。
「……ちょこ先輩、あたしの、ぜんぶ飲み込んじゃって……スッゴく、えっちです」
つ、と自身と智代子の結合部を撫ぜながら果穂が呟く。
「ね。もっと、気持ち良くして、……あげます、から」
耳元で囁かれた言葉にか、あるいはその吐息の熱さにか、カッと顔が赤くなる。
果穂は腰を動かして、一生懸命智代子を愛しているようだった。じゅぷじゅぷと水音が耳まで届いて、羞恥がさらに智代子を痺れさせる。
「……っ、ちょこ先輩の中……、せまくて……まとわりついてくるみたいで、スッゴく、スッゴく……気持ち良いです……っ!」
幾度もピストン運動で貫かれて、昂ぶりに喘げば逆に動きを緩められる。息を緩めたと思ったところで、再び激しく奥を突かれる。ぐしゃぐしゃに頭の中を掻き乱されて、蕩けた思考はすっかり意味のある言葉を発せなくなっていた。
「ちょこ先輩……好きです……好きです、好きです……っ!」
「うん……かほ、すきぃ……っ! すき……すき……すき……!」
貫かれる度、果穂自身を智代子の中に感じる度、果穂と自分が溶け合うような、合わさっていくような感覚に沈みながら、ただひたすらに互いの感情を確かめ合う。
ガクガクと揺れる足では立っているのもやっとで、支えを求めて智代子は目の前の蛇口にしがみついた。それでもなお支えきれない体を果穂の腕が抱き留めている。
このままずっと絡み合っていたい、そんな欲望に溺れそうだった。それを許さないのは、他ならぬ己自身の悦楽で。
「……んぅ……っ、……かほ、わたしもう、キそう……っ!」
「あたしも、もう……、で、出ちゃいます……っ!」
果穂のものをすべて受け入れられたらどれだけ良いだろうか。果穂を感じて、果穂でいっぱいになって、満たされて、溢れ出るくらい。
この瞬間を永遠に閉じ込めてしまいたくて、智代子は果穂の手をきゅっと握った。離れたくない、と願う気持ちはおそらく二人とも同じだったろう。
「あ、ぃ、い……イく────っ!」
自分を優しく抱く果穂の腕を、ぎゅう、と強く握る。強い快感にチカチカと目の前が白く眩んで、場所も時間も何もかも、頭の中から吹っ飛んでしまう。
「か、ほぉ……っ!」
「ちょこ先輩……っ!」
絶頂に蕩けてしまって、気づけばシャワールームの床に二人して倒れ込んでいた。荒い呼吸を繰り返すうち、少しずつ頭が晴れていく。
熱いドロドロした感触が背中を伝う。果穂は外で果てたのだろう。ぼんやりとした頭でそれを手で掻き混ぜる。こんなに熱くて濃くて、自分の中に流し込まれていたらどうなってしまっていただろう。もったいないなぁと智代子が思っていると、大きな手が伸びてきて倒れる智代子の顎を持ち上げた。
「ちょこ先輩」
名前を呼ばれて視線を上げると、まだ熱の冷めない瞳の果穂の顔がすぐ近くにあった。何か言おうと口を開こうとする前に、果穂の口がそれを塞いでしまう。数度軽いキスをして、それから舌を絡め合って深く長く吸い合うと、火照りが引く間もなく体の奥に熱が生まれた。
果穂の背中に手を回して、強く強く抱き締める。暖かくて、大きな体。だけどこうして抱き締めていると、彼女の体がどんなに細いかよく分かる。
「かほ、……」
「はい」
「……すき」
「はい」
自分を抱く果穂の腕に力がこもる。
「あたしも、……だいすき、です」
何度も何度も交換した言葉は、それでもなお変わらない、あるいはより強い輝きを持って、二人の心に積もっていく。宝石のような気持ちがいくつもいくつも、互いの心へと転がっていく。
ずっと、こうしていたい。けれど、そういうわけにもいかない。
「……えぇと、……シャワー、浴び直しだね」
「はい……、……ごめんなさい」
「い、いや、大丈夫です! ありがとうございます!」
しゅんとした声でか細く謝る果穂に、慌てて謎の敬語でなぜかお礼を言ってしまう。ありがとうとは?
「……それであの、ちょこ先輩」
「はい?」
シャワーを頭から果穂に浴びせて、髪をくしゃくしゃと洗ってあげながら智代子は聞き返した。
果穂はされるがままになりながら迷うように視線をさまよわせ、もう一度、あの、と繰り返してから、
「うち、今日は誰も帰ってこなくて」
「え、大丈夫なの、それは」
さすがに一人で留守番は危険ではないだろうか。
「はい、だから……あたしも、ちょこ先輩の家に泊まるって、言ってあって」
「へ?」
「なので、ちょこ先輩さえ良かったら、家に来たら……──」
真っ赤な果穂の顔に、智代子はその意味が分かってしまった。ゴクリ、と知らず喉が鳴る。
日が暮れるにはまだ早く。
夜が明けるには気が遠く。
今日はしばらく、終わりそうにない。