寮暮らしだから、それほど事務所から離れている訳では無い。って言うと、言い訳みたいだなあと思う。
七草にちかが走っていく姿を見かけて、アタシはその姿を追うことにした。それは、言いようのない不安。人に言っても納得してくれない衝動のような……つまるところ、ただの直感に任せた直情的な行動だ、これは。
「にちか!」
「……樹里さん」
にちかに追いついてアタシは声を上げる。もう既に日が落ちて辺りは暗かったけれど、構っていられなかった。
彼女の状況をはっきりと知っている訳では無い。けれど、WINGを必ず優勝しないとと息巻いていたことは知っている。
だから、だろうか。このまま行かせたら、何かとんでもないことが起きてしまうような錯覚を覚えた。だからアタシは息を切らして彼女を追った。
「どうしたんですか? もう夜、遅いですよ」
「……にちかこそ。いつもははづきさんと帰ったりプロデューサーに送ってもらうだろ、こんな時間。アタシは……ただの散歩だ」
散歩というのは嘘ではない。けれど、にちかを無視できたというのも本当だった。嘘はついていないけれど、本当のことを言っているわけでもなくて、少し罪悪感を覚えた。
「そうですか……それで、何の用ですか」
「それは……」
言葉に詰まる。何か、必要な言葉を用意してここに現れた訳では無いのだ。
にちかが心配で来た、なんて告げたら、かえって彼女を不審がらせるだけで。どうしてそんな心配を? なんて言われたら、何も返せなくなる。
だから、素直に答えることにした。
「にちかを放っておいたら……何か、大変なことをするような気がした」
あくまで、個人的な意思で来たことを伝える。彼女のためではなく、自分が不安なんだと、そう告げた。
「はは……なんですか? 大変なことって。ただ、WINGに敗退した……それだけですよ」
「……敗退したのか」
やっぱり、という言葉は飲み込む。この状況から推理はできていたものの、「やっぱり」と言ってしまうと「お前には所詮無理だった」というような意味にも受け取れてしまうからだ。
にちかはしまった、という顔をした。顔を伏せて目を背ける。
「……少し、場所を移そう。道の真ん中で話してる訳にも行かないだろ」
「そう、ですね。私も……少し人と話したい気分だったんです」
それは本音か、それともアタシに合わせただけなのか。
こっち、と告げてアタシは寮の近くの公園までにちかを連れていった。
「その……樹里さん」
「ああ」
「樹里さんは……優勝したんですよね」
「……ああ」
「私は……ダメだったんです」
「……そうか」
にちかは公園のベンチに座ると、顔を俯けてぽつぽつと語り出した。
「お姉ちゃんと、約束してたんです」
「約束?」
それは、聞いていない話だ。耳を傾ける。
「WING優勝できなかったら、アイドルをやめるって」
「……!」
だからか。合点がいった。七草にちかの焦燥は、そこに起因していたのだ。
「それで……ダメで。なんていうか、自分の全部が否定されたみたいで、事務所を飛び出して」
「……帰り道じゃなかったよな。そもそも、そうだったら多分、アタシの散歩道とは合わない」
「そうです。どこか、誰もいない場所に行きたかった。どこでもよかったんです。一人になれる場所に行ければ、それで……」
「……」
段々と饒舌になる。人と話したかったというのは本当だったのだろう。言葉の捌け口を探していたのかもしれない。
「樹里さんは、スカウトを受けたんですよね? プロデューサーさんに」
「……そうだ」
「私、違うんですよ」
「違う?」
オーディションを受けた、ということだろうか。スカウトだけが門戸じゃない。……それも、アタシは知らなかったことだ。今までちゃんと話してきてなかったなと改めて思う。
「私、プロデューサーさんに無理言ってオーディション受けて……それで、最初は仮入所だったんですよ。正式なアイドルじゃなくて、研修生としてアイドルになったんです」
「……へぇ」
にちかの焦燥の根は深いのだ、と思った。姉からの条件もそうだが、彼女自身才能を見出された訳ではなく……彼女がそう信じようとしただけだった、ということか。
少なくとも、アタシから見てにちかが才能のない人間には見えない。人並み以上に努力していたし、アタシの周りの人間だって同じように思っていたはずだ。
……ただ。ただ、それでも違うんだと思う。認められることがスタートではない、という、決定的な差。
タイミングが悪かっただけ、だとしても。
結果として、そこに結末は用意されていたらしい。
七草にちかのアイドル生活は、今日をもって終わってしまったのだ。
「どうして……」
にちかは、アタシの胸に手を置いて嗚咽を漏らす。
「どうして、アイドルに大して興味のなかった樹里さんがアイドルになれて、憧れた私にその権利はなかったんですか……?」
努力が必ず報われるとは限らない。アタシをこの道に掬いあげてくれたあのプロデューサーでも、彼女だけは救えなかったらしい。
――真にアイドルを志した、彼女だけ。
その言い方をするのは、少し意地悪なのかもしれない。
アタシは泣き崩れたにちかの背を、ぽんぽんと叩いてやる。
「代わって、くださいよ……」
「……」
甘えるな、と言ってやるのが優しさなんだろうか。夢敗れた彼女を振り切るのが、アタシに出来ることなのか。
そうじゃねえだろ、と思う。そうじゃないと思うのに、かけるべき言葉が見付からず、嗚咽を漏らし続けるにちかの背中を叩く。
よくがんばったな、と言えればいい。けれど、それはアタシの立場では言えないことだ。
次がある、という言葉はそもそも不適だ。にちかに次なんてものは無い。
だからアタシは泣き止むまでにちかの背中をさすってやることしか出来ない。何か言ってくださいよ、とは言わなかった。何も言えないことを、にちかもわかっているから。
言葉を探す。何も思いつかない。だからアタシはにちかの肩を抱いて、ただただ、一緒に居てやる。それしか出来なくても、それが意味のある事だと信じて。
「……樹里さん、私ね」
数分か、数十分か。にちかは泣き止むと「すみません」と言ってアタシから離れて話し始めた。
「……うん」
「死のうとしてたんです、本当は」
薄々だけど、そんな気はしていた。一人でどこかに走り去るにちかに言いようのない不安を覚えたのは、間違いではないようで、ある意味で安堵する。あそこでアタシが彼女を見つけていなければ、もしかしたら彼女は……。
思考をそこで止めて、アタシはにちかに向き直る。
「……ダメだよ」
そんな月並みな言葉しか告げられない自分に嫌気がさした。
「樹里さんはそう言ってくれると思ってました」
にへら、と彼女は笑う。
「でも、私本気で。誰に認められなくても絶対に優勝してやるってつもりで……っ」
「いいよ。落ち着いて」
再び涙を流し始めたにちかの肩を抱いてやる。一度泣き止んでも、話していたらどうしても思い出してしまうらしい。
「っ……ずびません……」
気持ちがわかる、なんて風に言うのは、失礼なのだろうか。アタシだって悔しくて泣いたことはある。でも、そこに向けていた感情の多寡を推し量ることなんてできないのだから。
「でも……樹里さんの顔を見て、やっぱりそれは逃げなんだなって思いました。その……樹里さんは気分を害されるかもしれないけど、多分、他のアイドルの誰にあっても、踏みとどまっていたと思います」
「はは……そんなんで気分悪くなったりしないよ」
誰かに会うことで覚悟が揺らぐなんてのはよくある話だ。今のにちかにとって、アイドルに会うことがファクターだった。それをわざわざ突っ込んでやる必要は無い。
「にちかが生きてくれるのに、その架け橋がアタシであれ、なんて言わない」
「……はい」
「今は落ち着くまで、ここにいたらいいよ。はづきさんには、アタシから連絡しとくからさ」
「……はい。ありがとう、ございます……」
アタシは携帯を開く。携帯の画面を出すと最初に凛世から帰りが遅いという旨の通知が届いていたので、すまん、野暮用だったと返した。不安だったのかすぐに既読が着いて、心配しましたと返信が来た。何も言わなかったのは落ち度だった、と反省。あと数十分帰らなければ警察に言うつもりだったようで、危ないところだった。
はづきさんには野暮用だったと凛世に伝えた後にすぐに連絡する。寮の近くの公園で座っていますと連絡しておいた。
「すみません……いろんなこと」
「いいよ」
東京の空は曇っていて、星なんか見えない。そんな中でにちかが落ち着くまで、アタシはずっと一緒にいた。
はづきさんが落ち着いたら迎えに行きますとチェインを返してくれたので、にちかがもう大丈夫ですと言ったあと確認をしてはづきさんに連絡を送った。
そして、にちかははづきさんと一緒に帰っていく。
――それが、七草にちかの最後の姿なのだと、少し経って気付いて。
アタシはポロリと、一筋の涙を零した。
――。
翌日、アタシはレッスンはなかったけれど、283プロに顔を出す。
「樹里? 今日はレッスンなかったよな?」
「あ、ああ……ちょっと」
ちょうどプロデューサーと鉢合わせして、少しきまりが悪い。アタシは靴箱で名前を探す。
「樹里?」
「悪い……用があるの、ここなんだ」
「……」
その言葉を聞いて、プロデューサーは頷いて事務所の中に入っていった。
そこにはまだ名前がある。
『七草にちか』と書かれた部屋靴置き場。
中を覗くと、まだにちかの部屋靴はある。事務所を飛び出したようだし、昨日見た時もそんな荷物を抱えているようには見えなかった。
……よかった。まだ、にちかはこの事務所にいる。後は――
「樹里さん!」
「……はづきさん」
顔を上げると、はづきさんがいた。……プロデューサー、いらないおせっかいなのに。
「少し、いいですか?」
そう言われて断れるはずもなくて。むしろ、これが目的だった。
「いいですよ。寮にでも来ますか」
「いえ……そうですね、近くの喫茶店でも」
「わかりました」
アタシとはづきさんはそれぞれドリンクとコーヒーを注文する。二人のドリンクが届くまでは無言で重苦しい空気が流れた。
そして、二人の飲み物が運ばれてきた後、はづきさんは話し始める。
「……すみませんでした。昨日、にちかを任せてしまって」
「頭下げないでください。アタシがはづきさんの立場でも、すぐに彼女を追えるかと聞かれたら、できません」
その原因が自分にもあると思ったら。アタシがはづきさんの立場でも、後ろめたさから彼女をすぐに追ったりはできなかっただろう。
「でも、にちか……死ぬつもりだったって」
「それは聞きました。でも、謝ってもらってもアタシは何もできませんから」
「……」
「それより、聞かせてほしいことがあるんです」
「……なんですか?」
「にちかに、その……WING優勝できなかったらアイドルやめろって」
「それは……」
「どうして、なんですか」
はづきさんを正面から見据えると、彼女は目を逸らした。
「家庭の事情っていうのは……突っ込んで欲しくないのかもしれませんが」
それでも、と、アタシは強く言う。
「にちかをあそこまで追い詰めたのは、プロデューサーでも本人でもなくて、はづきさんじゃないですか」
「……そうですね」
はづきさんは、素直に認める。
「……やっぱり続けさせたりとか、ダメですか」
仲間がいなくなるのは、寂しい。
だからアタシは説得するようにはづきさんに話しかけた。
「……言ったことを、曲げろと」
「……」
そう告げたはづきさんはいつもみたいに穏やかな顔はしていなかった。
「私も、それを伝えるために話す場を設けたんです。放クラ全員がいる場所で話すことでもないですから」
「……じゃあ」
「嫌ですよ。にちかだって、認めてたんですから」
「……っ」
「帰った後相談されました。お願いって言った方が正確かもしれませんね。まだ283でアイドルをしていたいって、そう伝えられました」
「なら」
「だからと言って言葉は曲げられません。実際、樹里さんを含めてあのプロデューサーはアイドルをWINGで優勝させられるだけの手腕があるというのは、樹里さんも認めるところでしょう」
「……それは、はい」
アタシは才能なんてないのにと自身を嘲っていたのに、彼はそんなアタシをWINGで優勝へ導いて見せた。彼の実力を疑うつもりはない。
「にちかは、アイドルをするに足る器ではなかったんですよ」
器、器、器。そう、器だ。アタシはその器に適合していて、にちかは適合していなかった。
……それが認められるなら。アタシは283プロに顔なんて出していなかっただろう。
「アタシは、にちかには才能があるって、信じたいです」
「私には信じられないんです。それなら、あの子は別の幸せを掴んで欲しい。それが姉心というやつです」
「アンタは!」
アタシは立ち上がってはづきさんを睨む。こんなのは初めてだ。はづきさんも驚いた顔をしていた。
「……っ、すみません」
店の中だとアタシは気付いて座る。それを見越して彼女がこの場所を選んだのなら、はづきさんは本当に強かだ。
「夢を追うのを……はづきさんには否定してほしくないんです……アタシは」
小さな声で、アタシは話し出した。
「アタシは、いろんな人に励まされて、時には励ます立場で、今までアイドルをしてきました。それはプロデューサーもそうだし、放クラの四人、他のユニットのアイドル達、社長……それに、はづきさんもです」
「……」
「どれかひとつが欠けてたって、今のアタシはない。成長って、時間をかけるものじゃないですか。WING優勝した時より、アタシは少しずつ成長してます」
「……だから、にちかが成長するまで待てと? 望みなんてなくても」
「望みは、ないなんて……アタシには思えないんですよ」
そう、諦めるには、まだ早すぎる。
「せめて、もう一度……あと一回だけ、チャンスを与えてやれませんか。大器晩成って言葉が正しいのかわかんないですけど……アイツの底、まだ見えてないと思うんです」
「……樹里さん」
「これでダメって言われたら、諦めるしかない。でも、はづきさんにアタシの気持ちは伝えられたはずです。……にちかのこと、もう一度考え直してください」
アタシは頭を下げる。店内だから土下座はできない。机に頭をこすりつけて、そう懇願する。
「それで、私が首を縦に振ると、そんな甘い人間だと思うんですか?」
「……。ダメ、ですか」
顔を上げる。けど、はづきさんはあまり厳しい顔はしていなくて。
「……いいですよ。樹里さんが信じたにちかを、もう一度だけ信じてあげます」
「……!」
「ただし、次が最後です。次、WINGを敗退するようなことがあったら、にちかは本当にアイドルを辞めてもらいます」
「……はい……!」
話し終えると、もう既にはづきさんのコーヒーは冷めてしまっていた。
「……」
「……ごめんなさい」
喫茶店を出て、はづきさんは事務所へ、アタシは寮へ帰る。その前に。
「はづきさん」
「なんですか?」
「その……次のWING、にちかのこと、ちゃんと応援してあげてください」
「……言われなくても、昨日までもちゃんと応援していましたよ」
それは本当だろうか。そもそも、アイドルをやめる云々の話を聞いたのが昨日だから、それまでのはづきさんがどういう態度を取っていたのか見ていなかった。どうだったろうと思い返してみると、確かにはづきさんはいつも通りだったように思う。邪推、だっただろうか。
「それでは、またレッスンの日に~」
はづきさんはもういつも通りだった。アタシはその変わり身の早さに一瞬驚いて。
「はい、またレッスンの日に!」
そう返した。
次の日、にちかが寮にやってきてアタシを呼びだした。
「にちか」
そういえば、口止めしてなかったなと思い返す。
アイドルを続けていいと言って、どうしてか聞かれて答えてしまったのだろう。別に、隠すことでもないけど。来た時点でわかってたし。
「……少し、いいですか?」
言葉が一語一句昨日のはづきさんと一緒だな、と苦笑してアタシはにちかを自分の部屋に招待した。
「わ、これがアイドルの部屋……! って、そうじゃなくて!」
にちかはアタシに向き直る。あんまり部屋をじろじろ見ないでほしい。
「その、聞きました。樹里さんが、私がアイドルを続けるようにお姉ちゃんに話してくれたって」
「……まあ、そうだな」
誤魔化しても仕方がないので、頷く。
「その……ありがとうございます!」
「いいよ。そんなの気にしなくて。ただ……そうだな」
アタシはにちかの頭に手を乗せた。
「誠意は結果で見せてくれ。次はちゃんとWING優勝して、お姉ちゃんをあっと言わせてやれ!」
「……! はい!」
にちかは元気よく応える。アタシはそんなにちかの様子が嬉しくて、つい頭をうりうりと強く撫でてしまう。
「もう! 頭わしゃわしゃしないでくださいー!」
「はは、悪い悪い」
少しだけ話して、にちかは家に帰っていった。いやはづきさんのいる事務所か? わかんないけど。
☆
「にちか……」
WINGの決勝。私は席に座り、にちかの出番を待つ。
ぎゅ、と、両の手を握った。
次だ。次が、にちかの番。
心臓が高鳴る。時間の進みが急に遅くなったように錯覚する。
そして、にちかのステージが始まった。
それは、全てがスローモーションのように見えた。もちろん錯覚なのだけれど。
にちかの姿を克明に、自身の目に焼き付ける。にちかはそれまでの誰よりも輝いて見えた。
身内贔屓でなければいい。彼女が優勝してほしいと、私は切に願う。
そして――
にちかは、WINGの栄冠を手に取った。
「やっ……」
そこまで言って踏みとどまる。それを大声で口にしていい立場ではない。
「はづき」
社長に呼ばれても、私は社長の方を向けなかった。一心ににちかの方を見る。
社長は私の肩を抱いて。
「よかったな」
一言、そう告げた。
「……っ、はい……!」
私はもう、涙を我慢することができなかった。
☆
「樹里さん!」
私はWING優勝の報告を、いの一番に樹里さんに伝えに行った。
寮では咲耶さんが出迎えてくれたから、咲耶さんには話してしまったのだけれど。
私は樹里さんの部屋をノックする。
「おー……にちか?」
「私……私!」
「いいよ、落ち着いて。とりあえず部屋入りな」
樹里さんに言われて、私は樹里さんの部屋に入る。
「私……その」
いざ言おうとすると、緊張してスッと言葉が出なかった。でも、樹里さんは何も言わない。時期的に用はわかっているはずだけど、私の口からその言葉を聞こうとしているのだ。
「WING、優勝……しました!」
数秒間の空白の後、私は樹里さんにそう告げた。
「っ……よかったな、にちか!」
樹里さんは私を抱きしめる。私と喜びを共有するためのハグ。
私は樹里さんの背中に手を回して。
「はい! ……はい! 本当に、よかったです……!」
少しの間ハグをして、どちらからともなく離れる。
「よかった……おめでとう、にちか」
「はい……樹里さんがいなかったら、私……」
私が言うと、
「いいよ、気にしなくて」
樹里さんははにかんで笑う。
「ちゃんと誠意、見せてくれたから」
『誠意は結果で見せてくれ。次はちゃんとWING優勝して、お姉ちゃんをあっと言わせてやれ!』
「私……283プロで、アイドル続けます!」
そこから先は、ちょっとした後日譚。
樹里さんと昼食を摂ることになり、近くのファミレスで二人で食事。その時に、樹里さんがお祝いに寮で飯食っていくか? と聞いてきてすぐさま寮のチェインに連絡。私は別にいいですよなんて言う暇なく、一緒に食べることになった。お姉ちゃんに伝えると、恋鐘さんの料理はおいしいですよ~と言われた。食べたことあるんだろうか。
夜までは樹里さんや凛世さん、咲耶さんや千雪さんと遊んで、恋鐘さんは料理の準備をしていた。恋鐘さんが可哀そうだとも思ったけれど、アイドルを続けるんだからまた遊びに来てくれ、その時にまた遊べばいいよ、なんて言われた。恋鐘さんは料理をすること自体好きなんだろう、きっと。
寮の食事はすっごく豪華だった。恋鐘さんはどうやら私用で外に出ていたようで、いろんな食材を買って来たらしい。そもそも、素材と言うより、シェフの腕がいい。私の箸はどんどん進む。
そして、食事を終えたあと、お姉ちゃんに連絡をする。お姉ちゃんに連絡した時、迎えに来るという話もしていたのだ。
楽しかった? と聞かれて、うんと応えると、お姉ちゃんはよかったと優しく微笑んでくれた。
……ところで、千雪さんってすごく食べるんですね。私より体重が軽いのは最初から驚いていたのだけれど、余計に不信感が増してしまった。鯖読みすぎじゃない? そんなこと、言えるわけないんだけど。