2021/2/16 14:57予測変換
 ピロン、と軽快な通知音。なんとなくめぐるかな、と思ったら本当にその通りだったから、ついクスリと笑ってしまった。
『灯織ー! 今なにしてる? メッセしてもいい?』
『大丈夫だよ。どうしたの?』
『あのね、ちょっと相談したくって』
 明日のラジオのことなんだけど……と続けて文字が浮かぶ。めぐるが私だけに相談なんて珍しいと思ったけれど、そういえば次の収録は真乃だけ別件で参加できない予定だったっけ。
 めぐるからの相談事、といっても特別難しいものではなく、真乃が居ない分の読み上げをどう振り分けるかだとか、フリートークでこの前一緒に遊びに行ったことを話していい? だとか。そういう簡単な内容が中心で、なんならこうやって会話すること自体が目的なんじゃないかと思うくらい。
 この程度なら課題の合間にもできそうだけれど、めぐるとチェインをするのが楽しくて、少し前まで握っていたシャーペンはもう筆箱の中へ帰してしまった。
『じゃあ、オープニングの後はその話をしよっか』
『うん! あ、そうだ! 灯織の変装が店員さんにバレちゃったことも言っていい?』
『え、それ話すの?』
 まぁいいけど……と打ち込もうとして、途中で手が止まる。というのは、送信直前で誤字に気付いたからだ。
「……『真乃いいけど』になってる」
 試しに『ま』と入力してみれば、変換タブの左端には『真乃』、その隣に『まぁ』と表示されている。なるほど、これが原因か。入力欄を修正して今度こそめぐるへ返事をすれば、既読はすぐについた。
 それにしても、真乃の名前が予測変換で最初に出てくるなんて。確かに打つ頻度はそこそこ……いや結構多い方だとは思うけれど、日用語より先に来るのはなんだか、不思議な気分だ。
 もしかして、と今度は今度は『め』とだけ入力する。案の定というか、やはり真っ先に出てきた変換候補は『めぐる』だった。
「ふふっ、今日はまだ一度も入力してないのに……」
 普段、どれだけ多くふたりのことを呼んでいたんだろう。
 入力欄に滑り込んだその三文字を消そうとして間違えて送信すれば、数秒後に『なぁに?』とゆるい返事が来た。