いつだったか、事務所の棚を塗り直したのも、めぐるだったっけ。
 この部屋へ引っ越した時に買った、赤青黄色のカラーボックス。私たちの色だねって、全員一致で購入を決めた。
 大事に使ってきたつもりだったけど、気づけば塗装が剥げてきていた。
 捨てるかどうか悩む私たちに、めぐるはもったいないよと笑ってペンキを買ってきてくれたのだ。
「めぐる、休憩しよう。朝からずっとやってるでしょ」
「んー……、……っと、もうこんな時間⁉」
 時計を見て慌てふためくめぐるに苦笑しつつ、私は水を差しだした。
「集中するのもいいけど、水分補給は欠かさずに、ね」
「えへへ……つい。気をつけます」
 照れくさそうに頬をかくと、指にペンキがついてしまっていたのだろう、ほっぺたに青色の線が走ってしまった。
「めぐる、ついちゃってる」
「え?」
「ペンキ。今拭くから、じっとしてて」
 ついたばかりなら、布でこすればすぐに落ちるはずだ。汗を拭いてもらおうと持ってきていたタオルを取って、身を乗り出してめぐるの頬に──、
「あ、ちょっと待って!」
「っ⁉」
 寸前で、手を止める。
 目と鼻の距離に、めぐるの瞳。
 抜けるような、青空の色。
 その瞳が一瞬手元に落ちてから、上目遣いにこちらを見る。
「えーと……大したことじゃないんだけど」
「うん……?」
「灯織の色だなー、って思ったらね。消えちゃうの、もったいないかもー、……なんて」
「な──……」
 顔が赤くなるのがわかる。
 どう返せば良いのかとっさに思いつかなくって、私は自分の頬を指でかいた。
「……消さないわけにいかないでしょ」
 気の利いた言葉は出てこなくて、結局こんなことしか言えなかった。めぐるはそうだね、と笑いながら私を見て、
「……あ」
「え?」
「ついてる」
 めぐるの指先が私の頬をツ、となぞり、
「わたしの、色」
 蒼穹を細めて、微笑んだ。
 青色と黄色、
 融け合ったら、
 ──何色?