2021/2/24 23:32通りがかりに
夜道を青年が歩いていると、一人の通りがかりの男に話しかけられた。
「すみません、少しよろしいでしょうか?」
「はぁ・・・なんでしょう」
男の身なりは清潔できちんとしており、会社帰りのビジネスマンといった風だった。
「このような話をされて驚くと思いますが、あなたには何か、女の人の霊のようなものが憑いているのです」
「なんですって」
「もちろん、これは霊能力を騙った詐欺や悪ふざけではありません。私には本当に霊感があるのです」
真剣な表情で話す男が嘘を言っている様子はないが、青年の反応は冷ややかだった。
「そんな突拍子もない話、信じられるわけないでしょう」
「ええ、そうでしょう。けれど、あなたに憑いている女の人は少し様子が変というか、あなたを恨んでいるように見えたので、それをどうしても伝えておきたくて」
「ますます失礼ですよ。女の人に恨みを買われるような覚えはありません」
「いえ、そう言われるのでしたら、私もただの通りがかりです。これ以上は何も言いません。しかし、もしも何か秘密にしていることがあるなら、何か起きる前に自分の行いをもう一度考えてみるといいですよ・・・」
そう言い残すと、男は青年と別れ、夜の中を歩いていった。
男と別れると青年はため息をつく。
「やれやれ、大変な目にあったな」
すると、青年の背後から恨めし気な声がした。
「よくも殺したな・・・」
その声に青年は今更驚くようなことはない。彼もまたある種の霊感の持ち主であり、自分の背後をついて回る女のことはよく分かっていた。
「しかし、この女が見えていたってことは、あの人の霊能力とやらは本物だったのだろうな。それで、俺がこの女を殺したのだと思って・・・」
ふと、全ての真実を話してしまえばよかったかと思ったが、すぐに青年はかぶりを振る。
もし言ったとしても信じてはもらえないだろうし、今のところ声がする以外の実害はなさそうなのでそこまで困ってはいないのだ。
それに、たまたま事故現場に通りがかった俺を自分を殺した相手だと思い込むくらい被害妄想の強い霊だなんて、馬鹿馬鹿しくてとても言えたものでは・・・。