ごめんね。
世界というものは、いつでも平等に回っているものだと思う。ふゆの上にも、あさひの上にも同じ空があって、同じようにぐるぐると回っている。なんとも律儀なことだ。最近、そんなふうに考える時間が増えた。あさひがまったく別の生き物であるというのも分かった。まったく同じはずの時間を歩いているはずなのに、あいつの頭の中には宇宙があることも。それでも、思考というものには筋があるはずで、一つひとつ要素を取り出していけば、言っていることの内容を解き明かすことができるのも。解き明かしたところで、理解できるはずもないのだけれど。
「最初に地面が動いてるって言った人は、すごいっすねー」
ブランコを漕ぎながらあさひは言った。
「だって、地面が動いてるなんて、どうやったら気付けるんすか?」
「…………」
説明をするのが、非常に面倒だった。こいつに天動説やら地動説やらを説いたところで、いちいち突っ込まれては、知るか、と答える自分が目に見えたし、教える程に詳しいわけではない。
「自分で勉強しなさい」
「はーい」
そもそも、どうしてこんな肌寒い中、公園でぼんやりとしていなければならないのか。早く愛依のやつが来てくれれば、世話をすべて押し付けられるのに。この後、三人揃っての収録さえなければ、目を離しても不安に思うことはないのに。
「……楽しい?」
「飽きてきたっす」
「だろうと思った」
公園で時間を潰すのも、そろそろ限界だと悟って、ベンチから立ち上がる。固まり始めた身体は、伸びをすると心地よい音が鳴る。
「帰るわよ」
「はーい」
ブランコからひょいと飛び降りる。危ないでしょ、と怒ってやろうかと思ったけれど、余計な時間を食いそうなので無視をする。
「しかし、素直に帰るようになったわよね」
前なら、もうちょい居たいだの、事務所に帰ってもつまらないだの文句を言っていた気がするのに。
「冬優子ちゃんといるの、なんだかんだで面白いっすから」
「は?」
それは、ばかにされているんだろうか。
「最近、冬優子ちゃんといると、地面が動いてるなあって思うんす」
首を傾げながらあさひは、ふゆの横を歩き始める。
ああ、面倒くさい。
「……地面が動いてるなんて、気付くはずないでしょ」
「だから、不思議だなあって」
その理由を、私が知ることはない。調べる気もないし、解き明かすつもりもない。
だって、ふゆは信じている。空が回っていると信じている。
「あさひは――」
「はい!」
「バカなのよね」
「いきなり怒られた!」
それでも地球は回っていると、あさひは笑った。