2021/2/4 02:14手袋-しゅてい-
 白雪が舞う寒空に、白い吐息が消えていく。
 手提げかばんを携える凛世の指先は赤く、冷たくなっていた。不思議だと思う。人は凍えると青くなるのに、全身が暖かい時に限れば朱が差すのだから。凛世は特にそうだ。体温が高い訳でもないのに。
 先を歩いていた樹里が、雪を鳴らして足を止めた。
「あの、さ」
「はい……」
 問い掛ける樹里に笑顔をを返す。凛世の手の甲に雪がはらついて溶けて消える。
「よかったら、これ」
 樹里はポケットに両手を突っ込んでいた。
 そのポケットから、手のひらと共に茶封筒が取り出される。凛世がこれはと問うより早く、樹里は顔をそむけた。手袋だよと言いながら、その表情を隠すように。赤らんだ頬は寒さのためか、それとも。
「なんか、いつも寒そうだったから」
「……」
 凛世は視線を落として、手のひらをじっと見つめる。握りしめていた熱が風に吹かれて消えていく。
「安くていいのがあったんだ。だから」
「……はい」
 どうしてだろう、ありがとうの言葉が出ない。
 受け取った封筒からは、毛糸で編まれた手袋が出てきた。赤と茶に白い雪模様の編み込まれた小さな手袋だった。それでも、指を通すと指先が少し余った。凛世の手が樹里よりも小さいことを、彼女は知らなかったから。
 けれど、それで良いと思えた。それが愛いと思えた。指先の隙間は、不器用でもなお人を想える、樹里の面影そのものだったから。
「いい感じだといいけど」
 樹里は伏目がちに呟く。期待と不安の入り混じった声色。
 凛世はふわりと手元を包み込み、指先に感触を探した。白い吐息と共に言葉が漏れて、彼女は微笑みにたゆたった。
「樹里さんを、感じます……」
 指先あと少しが、届かない。