また背が伸びたね、とスタッフさんに言われることは珍しくなかった。会う度に言ってくれるひとも何人かいたので、あたし、そんなに身長伸びましたか? とプロデューサーさんに聞いてみたこともある。子どもっていうのは俺たちには考えられない速度で育つからなぁ、なんて感慨深そうに笑っていたけれど、そういうものなんだろうか。あたしも大人からそう見えているんだろうか。
大きくなっている、と言われるのは少しだけうれしい。身長が高いのはいいことだと思う。戸棚に入っているお菓子も取りやすいし、ステージに立っていても遠くのひとまで見えるし、人に頼られたりすることも多いのは、ヒーローのようで誇らしくもなる。あたしの周りには、たくさんのステキな大人がいたから、その人たちに近づけたみたいな気持ちも少しはあるのだ。それに、なにより。
「果穂、また背伸びたんだ……」
あたしが事務所に持ってきた身体測定の結果を眺めて、ちょこ先輩は恨めしそうな声を上げた。そしてあたしを頭のてっぺんからつま先までじっと眺めて、成長期いいなあ……とため息をついている。
「もう中学二年生でしょ。私なんて、それくらいの時には身長止まってた気がするし」
「そうなんですか?」
「そうなの! せめて、せめてもう5センチくらいは……!」
拳を握って力説される。ちょこ先輩が本気で羨ましいと言ってくれるのも、嬉しいことだ。
「果穂の身長を、少しでも分けてもらえたらな」
「えへへ……」
唇を尖らせて、いいなあいいなあと連呼してくれるのは、むずがゆい気持ちになる。あたしが小学生の頃から、ちょこ先輩の身長は変わってないんだと言っていた。当然、身長差は開いていくばかりなので、ちょこ先輩に見上げられることもたくさん増えた。
「ちょこ先輩は、あたしのこと、成長したって思ってくれますか?」
「ん? もちろん?」
首を傾げて即答してくれる。どうしてそんなことを聞くのかな? という風な声で。
「果穂ははじめて会ったときから、毎日成長してるよ」
頭のてっぺんまで手を伸ばして、柔らかくなでられる。なでられやすいように少しだけかがむと、背伸びをしているつま先が目に入った。自分のことみたいに誇らしそうで、やさしい声が、いつもより近くで聞こえてきて、胸がきゅうっとなる。
「わぷっ」
ので、思わず抱きしめてしまった。
「あ。えと、ごめんなさい、つい……」
身体を離して、なぜかしどろもどろになりながら言い訳をする。昔は当たり前に抱きついていたのに、最近はなんだか恥ずかしい気持ちの方が強くなった。
「大丈夫大丈夫。抱きついてもらうのも久しぶりで、なんだか嬉しかったもん」
本当に嬉しそうな顔を、あたしはまっすぐ見られなかった。小学生の時のあたしはどうしてたんだっけ。ぐるぐると考えていると、ちょこ先輩が話を続けた。
「でさ、やっぱり思うんだけど」
「はい」
あたしはどう思っていいかわからない。背筋をぴんと伸ばして、気をつけみたいになったまま、次の言葉を待っている。
「果穂、おっきくなったね」
にこにこと笑って、あたしの成長を喜んでくれるちょこ先輩は、あの時のプロデューサーさんみたいな顔をしていた。
あたしは、あたしが思うよりも、ずっと背が伸びているのかもしれない。
だって、抱きしめた時のちょこ先輩は、昔よりもずっと小さくて。
「はい。あたし、背が伸びて、よかったなって思います」
背が高くてよかったと思うことがある。それは日常のいろんなことだったり、背が伸びたと褒めてもらえることだったり、自分を誇らしく思える瞬間だったりする。それに、なにより。
ちょこ先輩のつむじが、よく見える。