2021/2/4 01:31伝えたい想い
「伝えたい想い」
 小宮果穂、その名は私にとって……。
その名を呼ぶだけで幸せな気持ちになれる―――なんて、恋する乙女のような台詞に我ながらつい可笑しくなって、ふふっと笑ってしまう。
 私は自宅のリビングでひとり―――、否、ひとりと一匹でくつろいでいた。テーブルの上にはアイスペールに入ったワインボトルと飲みかけのワイングラス。間接照明の淡い光を受け、仄かな光を湛えていた。
半分以下になったワインボトルをそっと掴むとまたグラスへ注ぐ。数時間のうちに何度となく繰り返した行為だ。……すこし飲みすぎてしまっただろうか。
ふと、窓を見やる。
 窓の向こうに映るのは綺麗な街明かりと儚げな星。街の明かるさ対して星々は微かに煌めいていた。その景色と窓に反射した自分の姿が重なる。
 私は何をしているのだろう。すっかり酔いが回ってしまった頭で考える。私は果穂への気持ちに気がついた。いや、気がついてしまった。それは……。
 手に持ったグラスを傾ける。中の紅い液体がゆらゆらと揺れる。果穂からもらったモノは挙げれば枚挙にいとまがない。その中で一番に輝いて見えるのは果穂のまっすぐなその心だった。
 果穂の希望に溢れた目が好きだ。私を元気に呼ぶ声が好きだ。人懐っこいその笑顔が好きだ。
 年上だというのに、こんな風になった私を見たらどう思うだろうか。きっとあの子は。
「果穂……」
そっと呟いた名前の響きに思わず頬が緩んでしまう。ふふっと声が漏れる。グラスに残っていた液体を喉へ流し込んだ。
 隣で主人の酒宴に参加していたカトレアに抱きつく。モフモフとした柔らかい毛に包まれながら話しかける。
「ねえカトレア、貴女は果穂の事、好き?」
「ワンッ」
「ふふふっ、私もよ」
果穂もそう思ってくれていたら、嬉しい。
いつか、きっといつか果穂にこの想いを伝えたい。
 私は果穂が好き。果穂が大好きよって伝えたい。