「授業参観、か……」
私、神崎さやかは今窮地に立たされている。
事の発端は、行きつけの模型店の娘・高宮宇宙(そら)ちゃんのお願いだ。
「そうなんです、お兄ちゃんはどうしても外せない仕事があって。でも、神崎さんもお仕事忙しいですよね……」
そう言って、しゅんとしている仔犬みたいな宇宙ちゃんがなんだか居た堪れなくなって私は、溜まりに溜まった有給の消化をこのイベントに使うことにしてしまったのだ。
「いや、でも……」
いくらなんでも、高校生の娘がいる年齢ではない。もし「お姉さんですか?」と聞かれたらどうするべきか。などなど考てしまい、足取りが重くなってしまった。
鏡を見る。私の青春……シン・アスカが、呆れたようなめでこっちを見ている気がして、私は決意して宇宙ちゃんの学校へと向かったのだ。
「……都会の高校、すご」
田舎だった私の学校とは大違い。まず校舎が綺麗! 制服可愛い!(これは宇宙ちゃんので知ってたけど、それでも!) 何から何まで私の学校とは大違いで、びっくりした。
「ここか、宇宙ちゃんの教室……」
おそるおそる扉を開けると、もう授業ははじまっていて。
(宇宙ちゃん、どこかな……)
教室を見回すとすぐに、あの綺麗な黒髪が見えた。
(宇宙ちゃん……)
授業に耳を傾けるその横顔は、普段見ないそれで。明るくて、正直で、面白い宇宙ちゃんのこんな横顔を見るのは、はじめてで。
思わず、どきりとしてしまった。
(そういえば……)
私が16歳の頃を思い出す。あの頃の私も、こんな風に……。
(違う……)
毎日毎日『機動戦士ガンダムSEEDDESTINY』の続きが気になって授業も耳に入ってなかった……。
「次、高宮さん」
「はいっ」
宇宙ちゃんが現代文を朗読していく。静かな教室に宇宙ちゃんの小鳥のような(CV内田真礼な)声が響いていた。
「神崎さん、きてくれてありがとうございます!」
授業が終わり、宇宙ちゃんはやっぱり仔犬みたいに私に駆け寄ってくる。
「びっくりしちゃった。宇宙ちゃん、真面目に勉強してたんだね」
「もぅ、神崎さんは私のことなんだと思ってるんですか⁉」
プンスカする宇宙ちゃん。それが可笑しくて笑う私。
————しっかり学ぶんだぞ。
…………後日。
「神崎さん、『閃光のハサウェイ』が楽しみで授業が頭に入らないんですっ⁉」
(ああ、身に覚えしかない……)