2021/2/4 02:32怪談話?
「樹里さん、怪談のお話でも致しましょう」
「ああ、もうそんな季節か……幽霊、苦手とまではいわないけどよ……」
 凛世の独壇場になりそうで。以前の合宿での肝試しは一年前になるとはいえまだ記憶に新しい。声のトーンも相まって、凛世の怪談話を聞くのは少し恐ろしかった。でも、怪談を聞いて何も怖くないってのも面白くないし、そういう意味では凛世の話を聞くのは楽しいと言えた。
「では、樹里さんのお部屋に……」
「あ、あー、凛世の部屋でもいいんじゃねーか? 誘ってくれたことだし」
「……承知いたしました……」
 いや、別にちゃんと事前に言ってくれればいいんだけど。急に言われるとどうにも……チョコの写真とか壁に貼ってあるの、流石に人に見せたくないし。
「では、凛世から……」
「おー」
 ろうそくなんてものはなかったから、部屋の電気を豆電球にして話し始める。てか、そもそもアタシネタなんかあったか? まあ、適当に記憶探ればそれっぽいのはあるだろ。
「これは、ある寮生の話です……」
「ん? アタシたちみたいなか?」
「それは……話を続きを聞いてから……」
「ん、りょーかい」
 そう言って凛世はいつにもましておどろおどろしいトーンで語り始める。
「凛世は……その寮生はその日も、いつも通りに過ごしておりました」
「今凛世はって言わなかったか?」
「気のせいでございましょう……」
「……」
「いつも通りに過ごしていたその日の夜。隣室からなにやら音が聞こえてくるのです。隣室の住人も一人暮らしのため、音が聞こえてくることはほとんどありません。
 通話でもしているのでしょうかと、気になって耳をそばだててみると、そのような声ではありませんでした……。
 その声は、どうやら「横……横……」と執拗につぶやいているように聞こえます。横とはなんなのでしょう?」
 ん……なんか、この話……。
「その音が気になってスマートフォンで連絡を送ると、「なんでもない」という風に帰ってきて、その音はぱたりと止みました」
「ストップ」
「どう、されましたか……?」
「なんかオチが読めた。ていうかこれ、そういうことかよ……!」
 凛世が今日こうして誘った理由、全部分かった。コイツの目的は怪談話なんかじゃなくて……!
「……ふふ」
「クソ、聞こえてたのかよ……あー……そりゃ寮だもんな。隣室だもんなあ凛世!」
「樹里さん……」
「……なんだよ」
「智代子さんとの情事がうまく言ってないのは承知しております……」
「すんなよんなこと……」
 本人に言うな。
「しかし、隣室で喘がれるとこちらとしては少々……」
「悪かった! それは悪かったよ!」
 ああもう、伝え方の意地が悪いぞ……遠回しに伝えてくれようとしたのかもしれないが……余計に恥ずかしい!
「ったく……凛世もそういう意地悪するようになったんだな」
「これに関しては、樹里さんに弁護の余地はないと思われますが……」
「そうだけど……ちなみに、止められなかったらどう話すつもりだったんだ?」
「いえ……途中で止められることは、わかっておりましたので」
「クソ、一本取られたな」
「では、これからは……」
「……わかってる。やるにしてもうまくやるさ……うん、これ言うの恥ずかしいよすごく」
「ふふ……」
 つまりは、そういう話だったのだろう。急に怪談なんか言われて驚いたが、目的が談話ならさもありなん。といったところだ。
「樹里さん……」
「……なんだよ」
「凛世は、楽しゅうございました……」
「あーそうかい。そりゃよかったよ」
 笑う凛世の顔を見ていると、別に強く不満に思っていたわけではないらしい。
 これも、日常のスパイスのひとつとして割り切ることにした。
 ……うん、やっぱ恥ずかしいけどな⁉