「芳乃さんっ?」
私は事務所の一室にたどり着きました。ソファーのある、大きなお部屋です。
「どうしたんですかっ?」
それにしても、芳乃さんがソファーにいるなんて珍しいことです。普段は掃除をしたりお話をしたり、とにかくちょこちょこと動き回っている印象があるのですから。
「よっと……あっ!」
私は芳乃さんの顔をひと目見て、その声を潜めました。芳乃さんはソファーに座っているのではなくソファーで眠っているのでした。身体を動かして疲れてしまったんでしょう。すうという寝息が聞こえてくるようです。
私はそろそろと歩いて、ソファーの前を通り過ぎようとしました。が、
「あっ悠貴さんー? いかがしましたかー?」
「芳乃さん⁉」
気の緩みはいけませんね。端っこまでたどり着こうとした姿は、半開きの芳乃さんに補足されることになりました。
「邪魔してしまいましたねっ」
「大丈夫ですー。むしろ私を起こしてくれてありがたいのでしてー」
とっさに謝ってしまった私に対し、そろそろ仕事がありますゆえーと返してくれる芳乃さん。……でもそれがほんとうでないことは、私が一番知っているんですよ?
「ふふっ。それじゃあ行きましょうかっ!」
「おやー? あぁー」
寝ぼけた芳乃さんを引き連れて、予定より一時間早く仕事に向かいます。こんなドジなら少しあってもいいのかもしれませんね。